「────薫先生ッ!」
くたびれた白衣に後ろから飛びついた。「うお!?」と間抜けな声を上げた薫は、目を丸くして振り返る。
「来光? どしたの?」
授業で質問があった時、お小遣いをせびりに行った時、心細くて眠れない夜があった時、ただ何となく見ていた時。
どんな時もそうやって笑って振り返った。
「僕は薫先生のこと、家族だと思ってますッ……!」
喉が震えて声がひっくり返った。恥ずかしくて背中に顔を押し込めば、頬の涙がシミを作った。
「あの日扉をこじ開けてくれて、この場所に僕を連れてきてくれて、僕に居場所を与えてくれて、僕に沢山優しくしてくれて、色んなものを僕に与えてくれて、本当に本当に感謝してますッ……!」
恵衣たちが助けに来てくれた時、意識が遠くなる中で双子の兄である神々廻芽と戦う姿を見ていた。
まるで自分のことなんでどうなっても構わないとでもいうような投げやりで捨て身な戦い方で、家族を、恩師を、失うかもしれないと思ってとても怖かった。
「死なないでくださいッ、絶対に生きてください! 薫先生は僕のたった一人の先生で、家族で、帰る場所なんです!」
何かがプチンと切れた。うわぁぁと声を上げて泣いた。それだけこの人が自分にとって、大切な存在だったのだ。
「……来光」
名前を呼ばれた。何度も呼んでくれた優しい声で。背中が僅かに動いた。掴んでいた白衣を離すと、大きな手のひらが頭の上に落ちてきた。
そういえば中等部の頃はよくそうされたけれど、高等部にあがってからはめっきりなくなっていたことに気付いた。



