廊下を駆け抜けながら、この数年間のことを思い出した。
自分に人とは違う力があることを知って辛かった幼少期。家族とも上手くいかず、友達もできず、ずっと心には孤独を抱えていた。
そんな怯え隠れ引きこもる日々が変わったのは間違いなくあの日、あの人が無理やり扉をこじ開けて、この手を引っ張ってくれたからだ。
信頼できる仲間ができて、親友ができて、尊敬できる先輩にも巡り会えた。腹がよじれるほど笑って、唇が切れるほど悔しい思いをして、色褪せた世界はパッと色づいた。
あの人はいつもその輪の中にはいなかったけれど、少し離れた場所からくすぐったくなるような優しい顔で僕のことを見ていた。
実家には帰りたくないと言った僕に、帰れる場所も作ってくれた。てっきり休みの間はそこで一人暮らしをするのかと思っていたのに、一日に一回は必ず帰ってきて一緒に食事する時間を設けてくれた。
学校で何があったとか友達がどうとか、最近売れてる芸人の話とかご近所さんに野菜を貰ったとか。何気ない話題で溢れるその時間は、温かくて心地よくて何よりも大切だった。
学びの場、安心できる場所、頼れる背中、何気ない時間の共有、全て与えてくれたのは紛れもなくあの人だった。
傍から見たらちゃらんぽらんな人だ。真面目な顔は数えられる程度しかみたことがない。だけど誰よりも傷ついて来たからこそ、優しさの分け与え方を知っている。
その優しさに、僕はずっと救われてきた。間違いなく僕にとっては、本当の両親よりも家族のような存在だった。
これから何が起きるか分からない。もしかしたら本当に、最後になるかもしれない。
そう思った時に最後に感謝を伝えたいと思うのは、最後に顔を見ておきたいと思うのは、紛れもなくあの人だった。
廊下を駆け抜けた。神職たちの間をすり抜けて必死にくすんだ紫袴を探す。
息が乱れる。なぜだか涙が溢れた。



