言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


兄の必死の抵抗と、もともと私も審神者になりたいとは思っていなかったこともあって、今回限りの審神者代理『審神者代』として社へ入ることが決まった。


「審神者代なんて役割があったんですね」


清めの祝詞の奏上が終わってガタガタと震えながら川から上がる。千江さんが広げていた羽織を肩にかけてくれる。


「いうなれば審神者見習いやな。社に上がる前の審神者がそう名乗るんよ。今の巫寿ちゃんに当てはまる呼び名がそれくらいしかないからな」

「なるほど……」

「本庁は何かと形式にこだわるからしゃあないわ」


用意してもらった雪駄に足を通す。足先が氷のように冷たく、上手く鼻緒に引っかからない。

審神者代になることが決まったあとも、社へ上がるための神事をどうするかでまた一悶着あった。時間がないのにまる三日かかる神事を行おうとした上層部に対して、「儀式と人命のどちらが大事なんだッ!」と迫力満点の玉じいの叱責が飛んで、約百ある工程が十まで縮小された。

川での禊はその一だ。

作戦の大枠は聞いていて、私がかむくらの社から出てくるのは百鬼夜行が始まった二日目の夜だ。十まで縮小されたとはいえ、それでもまだ多い気がする。のんびりしている場合ではないのに。

後ろから千江さんが「速いて巫寿ちゃん!」と悲鳴をあげる。振り返ると、すぐ側を歩いていたはずの千江さんがはるか後ろにいた。いつの間にか早足になっていたらしい。

すみません、と声をあげようとしたその時。


「巫寿ちゃーーーん!!」

「巫寿さん……!」


神修へ続く石階段を勢いよく降りてくる二人の人影が見えた。転がるようにして降りてくるそのふたりの顔に「あっ」と声を上げる。よく知った顔に少しだけ泣きそうになった。


盛福(せいふく)ちゃん! 玉珠(ぎょくじゅ)ちゃん……!」


神楽部(かぐらぶ)の後輩ふたりが、勢いのまま私の胸に飛び込んできた。