言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


まねきの社の園庭を流れる小川は、社と神修がある山の山頂から湧き出た清水でできていて、神事が行われる際の禊は基本的にここで行われている。

以前私も月兎(げっと)の舞を奉納した際に、禊の一貫として聖仁さんとここで手を洗った。


「せ、千江(せんこう)さん、めちゃくちゃ寒い」

「我慢我慢! これから三日間飲まず食わずで奏上やと思ったらこんなん可愛いもんやろ!」


アハハッと豪快に笑った千江さんは、「ほら肩まで浸かり!」と喝を飛ばす。

春とはいえまだ明け方はかなり冷え込む。手足の感覚がなくなり始めているのを感じながら、氷のように冷たい川の中に肩まで使って胸の前で手を合わせる。踝から脳天までぶるりと震えて、奥歯はガチガチと音を立てた。

私が安全に天地一切清浄祓(てんちいっさいしょうじょうはらい)を奏上できるように禄輪さんたちが案を出してくれた中で、奏上までの修行と儀式をかむくらの社で行うというものがあった。

百鬼夜行が始まれば、社が重点的に狙われる。そうなった時にかむくらの社であれば、一部の人間しか中への入り方を知らないから安全というわけだ。

それに猛反対したのが本庁の役人たちだった。


『審神者以外の人間が立ち入るなんて言語道断!』

『あそこは聖域、気軽に入っていい場所ではないのだぞ!』


烈火のごとく怒る役人たちから、私を含む数名がそっと目を逸らしたのは言うまでもない。

聞いた限り、若かりし頃の禄輪さんは志ようさんに会うため頻繁に社へ顔を出していたらしいし、いちばん罪深いと思う。

ともかく一介の神職が気軽に立ち入れる場所ではない聖域であることから反対する声が多いなか、本庁役員により提案されたのが「私を審神者にすること」だった。

『もともと巫寿さんは審神者候補として、先々代の指導も受けていた。専科を卒業後に審神者に打診しようと考えていたが、この際進めてしまってはどうだ』

『おい待てやオッサン、何勝手に話進めてんだよ! うちの巫寿は審神者になんてさせねぇよ! 審神者になったらもう寝顔を見れないし一緒にご飯も食べれないし、巫寿の靴下も干せなくなるじゃねぇかよッ!』

『ちょ、お兄ちゃん止めてよ、恥ずかしいから!』