禄輪さんが後ろに置かれたホワイトボードを見上げて深く息を吐いた。
ずらりと書き連ねられたたくさんの祭祀には上から棒線が引かれている。唯一線が引かれていないのが、私が提案した天地一切清浄祓だった。
自然と全員の視線は、私とお兄ちゃんに集まった。
薫先生が口の中でもごもごと何かを呟くと、お兄ちゃんの口元を塞いでいた形代がはらりと机の上に落ちた。落ちると同時に鬼の形相で「絶対に許さん」と答える。
「巫寿を失う可能性があるなら、俺は誰が死のうと世界が終わろうと絶対に許可しない。そんなの当たり前だろ。あんたらだって自分の家族で置き換えて考えりゃ、俺が反対する理由がわかるはずだ」
お兄ちゃんの気持ちはわかる。
私だってもしお兄ちゃんが今の私の立場だったら、絶対に許すはずがない。幼い頃に両親を失って、必死に二人で支え合って生きてきた大切な兄弟だ。失うなんてことすら考えたくもないし、失った日々を考えるとそれだけで苦しかった。
それに正直、他の方法を探そうと言ってくれた時は内心ホッとしていた。
死ぬのは怖い。やりたいことはまだまだ沢山ある。勉強もしたい、舞も覚えたい。みんなと遊んで、恋をして、大人になって。大人になってもみんなとずっと、今みたいに笑っていたい。
でも、大切な人を失う怖さも知っている。もう誰にもそんな思いをさせたくない。だからこそ、大切な人を守りたい。
ここへ来て、たくさんの人たちから大切に想われていることに気付けた。愛することも愛されることも知った。
そんな毎日は間違いなく私を強くしてくれた。
「巫寿を失ったら、俺はもう生きていけないんだよ。巫寿は俺の希望なんだよ。母さん立ちに託された、希望なんだよ」
お兄ちゃんが声を震わせた。



