言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


「あれは禁書の棚にあったはずだ。禁書の棚にあるということは、真似してはいけない事が書かれているからだと少し考えればわかるだろう!」


テーブルに拳を打ち付けた禄輪さん。

これまでにないほどの勢いで怒っているのは、私がやろうとしていることがどれほど危険なのかを知っていて、それほど私のことを心配してくれているからだ。

これは禄輪さんの優しさだ。

ちょっと待ってよ、と間に入ったのは(くゆる)先生だった。


「俺達には全く話が見えてこないんだけどさ、先代の審神者がどうやって空亡を祓ったのか、禄輪のおっさんは知ってたの? てか知ってて報告書にまで書いてたのに、なんでおっさんや本庁は俺たち神職に隠してたの?」


禄輪さんがぐっと眉毛を寄せて視線をそらす。口を閉ざした禄輪さんの代わりに、「代わりに私が答える」と、上座に座っていた前本部長の玉じいだった。


「前審神者が最期に使った祝詞は、当時一番近くにいた禄輪が聞いていた。禄輪はそれを本庁に報告し、本庁上層部の一存でそれを秘匿することにした」


会議室がざわめきたつ。中には本庁に対して疑念を抱く声も聞こえた。

そうなるのも仕方ない。空亡を祓除寸前まで追い込んだ祝詞を本庁上層部が秘匿するなんて、普通ならあってはならない事だ。

それが日本神社本庁が定める神役諸法度のと、奏上してはならない祝詞────禁忌詞に該当しなければ。


「先代の審神者が奏上したのは、天地一切清浄祓(てんちいっさいしょうじょうはらい)。己の身を犠牲にする禁忌詞だ」

「つまりそれを奏上すれば、空亡をまた祓除に追い込めるということですか?」


若い男性の神職さまが、整理するようにそう聞き返す。誰かが息を飲む音が明確に聞こえて、その人は自分の失言に気付いたらしい。

あ、と震える声で呟いたあと青い顔をして俯いた。