道中でお兄ちゃんが誰かに連絡をして、目的地は屯所ではなく神修へ変更になった。かむくらの神職たちは今神修にいるらしい。
電話の相手と一言二言交わした後お兄ちゃんが険しい顔で通話を切る。何かあったのかと尋ねたけれど「いや」と話を濁されてしまった。表情からして楽しい話でないことだけはわかった。
鬼脈に入ると、お兄ちゃんはすぐに馬を借りた。
神修行きの最終便は終わっていたらしい。
かむくらの社の結界同様、神修には決められた手順を踏まないと辿り着けない。そのひとつがご神馬に乗って向かうことだったはずだ。
お兄ちゃんに抱きかかえられ大きな黒馬の背中にまたがる。思い返せば馬に乗るのは部活体験で流鏑馬部にお邪魔した時以来だ。あれからまだ2年も経っていないのに、もう随分昔のことみたいに思える。
車の窓から見る景色のように次々と木々が後ろへと流れていくのを見つめていると、お兄ちゃんが「あのな巫寿」と口を開いた。
「さっきの電話のことなんだけど……巫寿の友達二人は無事救出されたって。怪我は負ってるけど、命に別状はないらしい」
「本当に!?」
思わず振り返って確認しそうになって慌てて手綱を握り直す。後ろでお兄ちゃんが「本当だ」と続けて、 喜びと安堵で手綱を握る手が震えた。
『だからさ、────あとは任せたよ』
そう言って私の背中を押した来光くん。遺言のようなその言葉を聞いたあの瞬間の絶望は、言葉には表せないほど胸を締め付け、今でも鮮明に残っている。
ふたりなら絶対に無事に帰ってくる。必ず恵衣くんが連れて帰ってきてくれる。そう信じていたけれど、心のすみにはずっと不安が渦巻いていた。



