しばらくして志ようが戻ってきた。巫寿を抱く騰蛇の姿に「あれ?」と目を瞬かせる。
「他のふたりは?」
「あとは宜しくと」
「つまり逃げたのね」
まったく、と苦笑いを浮かべた志ようは、すやすやと眠る巫寿の顔を覗き込み表情を和らげる。
「ぐずってる声が聞こえたけど大丈夫だった?」
「ええ」
「そう、ありがとう。代わるからもう戻ってもいいわよ」
志ように差し出そうと赤ん坊から少し体を離した騰蛇は、つんと布が引っ張られるような感覚に固まった。
動きを止めた騰蛇に首を傾げる。
「騰蛇? どうしたの? ────あら」
ふふふと微笑ましそうに笑った志よう。騰蛇はゆっくりと自分の腕の中に視線を落とした。引っ張られるような感覚の正体は、自分の着物を握る小さな手だった。
すよすよと寝息を立てながら、それでもしっかりと騰蛇の襟元を握っている。手を外そうと軽く引っ張てみると、小さな眉毛を潜めて一丁前に嫌がる素振りを見せた。
「この数分で随分仲良くなったのね」
「何もしていません」
「巫寿は大人しいから、それが良かったのかもね。じゃあ起きるまで騰蛇に任せようかな」
そう言われて、もう一度腕の中の小さな生き物に視線を落とす。小さくて柔らかくて、すぐに消えてしまいそうなほど儚い存在なのに、しっかりとした熱を感じる。けれどその熱に、嫌な気はしなかった。
その日を境に、泉寿が巫寿を連れてくる日は騰蛇が世話を任されるようになった。



