追われる身になってから、嘉正くんのアドバイスで服装や体型で性別が分からないようにみんなの男物の服を借りて着ていた。
それに外に出る時は常にキャップかフードを被って髪を隠しているから、一目見ただけじゃ私の性別が女だとすぐには判断できないはずだ。
そもそも目が合ったわけでも私から話しかけた訳でもないのに、どうして私が"妖が見える側"だと分かって声をかけた?
つまりこの妖狐は────私が女であり妖が見える人物だと知っていて、声をかけてきたということだ。
そこから導き出される答えは一つしかない。
静かに深く息を吸う。両膝にグッと力を込めて、弾けるようにその場から駆け出した。
「逃げたぞ! 追え!」
妖狐が叫ぶと同時に周辺の茂みがズザッと音を立てて揺れる。複数の足音が地面を蹴りあげる。私を狙っていたのは、あの一匹だけじゃなかったらしい。
「眞奉! 距離を取るために少しだけ応戦する!」
「承知しました。剣をお借りします」
眞奉が右手を横に広げると、瞬きした次の瞬間には國舘剣が握られていた。
すぐに数匹の妖狐が私たちの真横まで追い付いてきた。土を蹴り上げて私たちに飛びかかってくる。黄ばんだ犬歯が夕日でぎらりと光る。
柏手を打ち鳴らし一息で詞を紡いだ。
「かつねなら きつねならぬぞ 心得ぬ きつねにせよや きつねなりせばッ!」
飛びかかってきた妖狐は私に触れる直前で、まるで壁に当たったボールのように勢いよく跳ね返った。キャンッと短い悲鳴をあげて土の上に転がる。
狐落としの神歌だ。



