行き道で優秀な眞奉に帰り道を覚えておいて欲しいと頼んでいたお陰で、濃霧で惑わされることも複雑な結界抜けで迷うこともなく山中へと戻ってきた。
外はもう既に太陽が傾いていて、木々が赤い光で染っている。逢魔ヶ刻と呼ばれる時間だ。
「もうこんな時間……急がないと」
まずはかむくらの屯所へむかって鈴を預けて、それからかむくらの社へ。でもその前にいろいろと片付けておかなければいけないことがある。話したいこともだ。
とにかく山を降りないと何も始まらない。
早る気持ちを堪えつついつもよりも大股で歩き出したその時、
「おい! そこの娘!」
背後から眞奉以外の声が聞こえて弾けるように振り返る。尾っぽが三本に別れた黄土色の毛を持つ狐が、赤い目でじっとこちらを見ていた。
私が勢いよく振り返ったことに驚いたのか、狐はぶわりと毛を逆立てた。
「急になんだ、びっくりするじゃないか」
狐────妖狐はブルブルと身体を振った。
同時に私の背筋に冷たい汗が流れる。バレないように静かに背中に手を回した。指先には何も引っかからない。来光くんが貼ってくれた御札がなくなっている。
思ったよりも効力が早く切れたのか、それとも険しい山道でどこかに落としてしまったか。
どちらにせよ、危ない状況であることには変わりない。
「こんな時間にひとりで出歩くなんて危ないぞ。帰り道は分かるのか」
妖狐が一歩二歩とこちらへ歩いてくる。後ろへ下がって距離を取れば妖狐は不思議そうに首を傾げた。



