濃霧を掻き分け岩肌に沿って進んでいると、大人一人がやっと通れるくらいの大きさの控えめな縦穴がぽっかりと空いていた。両サイドに鳥居の模様が掘られているのでここも結界のひとつなのだろう。
中をのぞき込むと音が1メートルくらい進んだ先はもう行き止まりになっていた。大きな岩がほんのわずかな隙間すら許さずピッタリと嵌め込まれている。
「行き止まり……?」
「いや、これは岩戸だ。この奥に君がいる。俺はすり抜けられるが、あんたは一度この岩戸を開く必要がある」
恣冀が岩戸に手を伸ばすと、その手は岩戸に吸い込まれるようにすり抜けた。試しに私も手を伸ばす。手のひらには少し湿ってごつごつとした岩の感触が伝わってくるだけだ。
この先に志ようさんが……でもどうやってこんなに大きな岩戸を動かせばいいの?
「志ようさんは、この岩戸の動かし方を教えてくれなかったの?」
「俺はすり抜けられるからな。しかし"もし誰かがここへ来ることがあったとしたら、その人が神職なら多分誰でも開けられる"……とも言っていた」
顎に手を当てて俯く。
神職なら誰でも開けられる……つまりそれほど簡単な作りだということだ。
もう一度岩戸を見上げた。
岩戸はその名の通り岩でできた扉で、日本神話の「天の岩戸」の話の中にも出てくる。弟の須佐之男命の乱暴さに怒った姉の天照大神が天の岩戸に隠れてしまい、世界が暗闇に包まれるという話だ。
神話の中では確か、岩戸に隠れた天照大神を外に引っ張り出すために────。
「あっ……!」
天照大神は女性神、この岩戸の奥に隠れているのも女性の志ようさんだ。
そして岩戸に隠れてしまった天照大神を誘い出したのは芸能の神天宇受売命で、天宇受売命は舞を舞ってその岩戸を開けさせた。



