志ようさんが自分の体を隠すために作った結界は、かむくらの社の結界と同じ構造をしているようだ。
ただかむくらの社のようにちゃんとした鳥居がある訳ではなく、木々や岩の影に鳥居の模様が二箇所ずつ掘られていて、その間を通り抜けることで結界を抜けることができるらしい。
恣冀先導のもとその調子で三時間近く結界を進んでいくと、突然ひんやりした空気が立ち込めたひらけた場所に出た。霧が濃くて周りの景色はあまりよく見えないけれど、川のせせらぎが近くに聞こえる。足元は土ではなく細かい石が転がっていて、音が上へ上へと伸びていくような感じがするのでおそらく渓谷のような場所に出たのだろう。
そして、ここが目的地なのだということはすぐに分かった。
一晩雨が降って次の日の朝の社頭のように、その場所が丸ごと洗濯されたような心地よい清涼感で満たされている。肺に流れ込む空気は新鮮で濁りがない。
空気は冷たいけれど、空から降り注ぐひかりがまろく温かいおかげかそこまで寒さは感じなかった。不思議な場所だ。ここまで清浄な場所を他に知らない。
志ようさんが自分の身体を保存するために整えた場所なのだろう。
「この霧も君の仕掛けたものだ。俺以外の生き物は霧に触れた瞬間ここを彷徨い続けることになる」
「え!? わ、私もう思いっきり触ってるんだけど……!」
「落ち着け、俺が先導すれば問題ない。騰蛇は影に隠れてろ」
霧の中から恣冀の手がにゅっと伸びてきて私の手首を掴んだ。
恣冀の姿を見失っている時点で、私はもう迷子になっていたのだろう。
背筋に冷たい汗が流れる。離すものかともう片方の手で恣冀の腕をがっちりと掴んだ。



