薄い唇が開いた。
「本当に……ここまで来るとは思わなかった」
思わず苦笑いを浮かべる。
「約束したでしょ」
「人の子が脆いことは知ってる。君も些細なことでよく怪我をしていた。ここまで来ることは、そう容易いことではなかっただろう」
私の身体に視線を向けた恣冀が顔を顰めて俯いた。
確かに容易いことではなかった。何度も折れそうになって、帰りたいと願って、不安で涙が溢れたか。
それでも諦めなかった。諦めなかったのはここまで続く道を切り開いてくれた仲間たちの存在があったからだ。そして、それ以上に。
「恣冀と同じ理由だと思うよ」
ぐっと頬を拭ってはにかんだ。恣冀が眉根を寄せて私を見つめる。
「守りたい人がいるから、諦めなかったんだよね」
何十年も動かなくなった志ようさんを、ただ見守り続ける日々はどれほど苦しかっただろうか。それでも恣冀は守り続けた。そして私に助けを求めてくれた。
誰かのために何かをしたいという気持ちは、私たちが思う以上に私たちを突き動かす原動力になる。
家族を、仲間を、親友を、恵衣くんを。
守りたい。ただ、それだけだ。
社に現れた時からずっと険しい顔をしていた恣冀が、初めてフッと表情を和らげた。
「……その通りだな」
小さく頷いた恣冀が背を向けて歩き出す。振り返って眞奉を見上げると彼女は小さく頷く。深呼吸をしてからゆっくりと一歩を踏み出した。
ようやく、ここまで来た。
この先に、志ようさんがいるんだ。



