蓄積された疲労もあってか苛立ちが隠しきれない声色で続ければ、眞奉が白い指をスっと前方に差し出した。木々に阻まれてよく見えない。眉根を寄せて目を細める。
焦げ茶と深緑ばかりの空間に、輝く白がほんの僅かに見えた。は、と息を飲む。
「君の足で、あと数百歩かと」
淡々と答える眞奉に、苛立ったてしまった事を「ごめん!」と詫びて走り出す。
木々の隙間から差し込む朝日に白髪が眩しく輝く。まるで光をまとっているように、その人は美しい。
少しづつ思い出してきた。小さい頃の私は恣冀に会っていて、まだ人と妖の区別がついていなかった私は彼のことを「キラキラしたお兄さん」と呼んでいた。
怒ると怖いけれどそのキラキラした見事な白髪と、甘い蜂蜜を閉じ込めたような琥珀色の瞳が好きだった。
あの頃を懐かしむ気持ちとともに、胸を締め付けられるような苦しさが足を重くする。
会いたくて、大切で、苦しめたことを悔いていて、誰よりも彼の幸せを祈る気持ち。志ようさんが私に名付けた時に、同時に引き継いでしまった志ようさんの一部がそうさせているんだ。
足音に気付いた恣冀が顔を上げて振り返った。彼の数歩手前で足を止めた。頬を伝う雫を拭う。汗なのか涙なのか分からない。
かむくらの社であった時とは違う、はっきりとした存在感と熱を感じる。
白いまつ毛に縁取られた琥珀色の瞳が私を捉えた。その瞳は不安と諦めと、ほんの僅かな希望に揺らいでいる。



