言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー



────ちょっと押されぎみだから、一旦引こうと思うんだよね。一分以内に撤退して、また後で落ち合おう。


脳内に直接声を届ける術でも使ったのか、それを聞いたほかの神職たちが驚いたように耳を抑えている。

芽がため息をついて痛そうに首を押さえて回す。脱ぎ捨てた羽織を拾い上げて、気怠そうに腕を通した。

必死に床を這った。

ここでその背中を追わなければ、また自分は同じ後悔をする。本当にもう二度と、親友にも家族にも戻れなくなる。

床板が軋む音が聞こえたのか、芽が振り返った。氷のように冷たい目が薫を見下ろす。顔は笑っているのに、目には感情がない。かける言葉が出てこなかった。


────それから……これは呪ではなく、理に縛られ、喘ぎ続ける妖たちを解放するための言祝ぎだ。


頭の奥に芽の声が響く。


──── 一週間後、来たる五月一日。自由を求める妖たちは、残りの空亡の残穢を集め、俺のもとへ持って来るといい。

すべての“器”が揃ったその時、人の時代は終わる。次に訪れるのは、君ら妖の時代だ。


何を言ってるんだ芽は。言祝ぎ? 妖の時代? 何一つ意味がわからない。

どうしてこうなったんだ。どうして。どうして。

始めたのは芽で、でもきっかけは俺で。何度も何度も戻ろうとしたけれどどうにもならなくて。足掻けば足掻くほど拗れて絡まって、そしてどうにもならないところまで来てしまった。



────俺はただ一度、すべてを壊したい。ただそれだけ。その後は人の世を滅ぼすなりなんなり、好きにするといい。