言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー



返事を待たずに隆永が飛び出した。芽に抱きつくように体を拘束し床にねじ伏せる。

俺が────殺す? この人と、芽を?


「早くしろッ!」


隆永が怒鳴る。芽が顔を歪めながらその手から逃れようともがいている。反射的に胸の前で手を合わせた。手が上手く合わさらない。震えている。


「────言霊(ことだま)() ここに満ちて威を顕し」

「そうだ薫! いいぞ!」


滅多に褒めなかった隆永に褒められた。なのに少しも胸が高鳴らない。むしろ泣きたくてしょうがなかった。

脳裏を、九歳のあの夏の日の記憶が走った。生まれて初めてこの手で人を、それもこの世で何よりも大切な人を殺めてしまった。

それからの日々は言葉にできないほど苦しくて、いっその事死にたいとすら思った。自分の力の恐ろしさを知って、もう誰もこの手で傷つけたりしないと誓った。必死になって修行した。

それなのにまた、俺はこの力で人を殺めるのか。

それも兄を、父を、家族をまたこの手で。


「荒ぶる禍津(まがつ)禍群(まがむら)を 悉く祓い断つ」


確かに殺すべきだと思った。殺そうともした。でも実際にこの手があと一歩のところで届きそうになったその時、情けないくらいに手が震えるのだ。

やらなくちゃいけない、できるのも俺しかいない。仲間や大切な人たちを守るため、でも俺は、本当は。