一番最初にそれに気付いたのは母親がまだ生きていた頃だ。離れに住み着いた黒猫がいて、幸とふたりで可愛がっていた。ある日、よく懐いていたはずの黒猫が毛を逆立てるようになって、ショックを受ける薫に猫の膨れた腹を見た幸は「妊娠しているから神経質になっているんだよ。そっとしておいてあげようね」と笑った。黒猫が死んでいるのを見つけたのは、その数日後だった。
あの時は気が動転して、もしかして自分の呪で殺してしまったのではないかと考えたけれど、よくよく思い出してみると間違いなくあの猫を殺したのは芽だった。
腕にくっきりと残った噛み傷、芽の足元に転がっていた血の着いた石ころ。おおかた、無理やり猫を触ろうとして腕に噛み付かれ、追い払おうとして石で叩いてしまいあの猫は死んだのだろう。
「僕が殺したの?」と聞いた時、芽は否定も肯定もしなかった。あの場においてその沈黙は肯定と同じだった。
それが最初で、それ以降もそういうことが何度かあった。そして今、本庁を裏切り仲間を殺す理由を「お前たちを守るため」と言う。
小さい頃からいつもそうだ。芽は犯した罪から逃れるために、自分に都合のいいように言葉を並べて罪を相手に擦り付ける。昔からそういう所が嫌いだった。
いつもいつもアイツは優等生の顔をして、責任を俺たちに押し付けてくる。
もううんざりだ。芽の自分勝手に付き合わされるのは。
「御神を 向こうに立てて 祈るなら いかなる禍津も ちりと思わずッ!」
形代が目の前で勢いよくザァッと縦に裂けて紙吹雪となって床に落ちた。視界が狭まる中で一気に芽の前に飛び出す。
視界が晴れると同時に、勢いよく胸の前で手を合わせた芽と目が合った。



