殺すべきだと思った。間違いなくそれが最適解だし、かむくらの神職たちは言葉には出さなかったものの今回の戦闘の最終目的はやはり芽を殺すことなのだろう。
殺すべきだ、殺さなければ守れない。仲間も、この世界も。分かってる、分かってはいるものの、いざその局面に立たされた時、体が動かなくなるのはなぜだ。
さっきだっていつもの自分なら隆永が止めに入るよりも前に呪詞を唱えられていたはずなのに、いつもよりも速度を落としてと唱えていた。
自分はどうしようもない馬鹿だ。
大切な教え子を殺した目の前にいる芽と、一緒に馬鹿をして腹を抱えて笑い転げていた頃の芽が未だに重なってみえるなんて。
もうあの頃の芽はいない。目の前にいる芽は別人。何度もそう自覚されられたはずなのに、未だに僅かな幻想を抱いてしまう自分がいる。
「おい悩むのはあとにしろ親父さんのフォローに入るぞ」
嬉々が芽たちの元へ走り出す。唇を結び深く深呼吸をしてその背中に続いた。
隆永の呪詞と芽の祝詞が激しくぶつかり合い空中で霧散する。どす黒い靄は白い光に包み込まれて水蒸気のように黒い煙を上げて空気中に溶けていく。
自分の呪の総量を知っているからこそわかる、隆永は芽には勝てない。それどころかほとんどの神職が呪詞を言祝ぎで打ち消されて、芽を呪うことはできない。双子の自分で互角か僅かに上回っているくらいだ。
辛うじて打ち消されなかった呪詞は、呪詛返しによって弾き返され隆永の体にまとわりつく。ぐっと呻き声をあげた隆永が、すかさず懐から形代を取り出し息を吹きかける。
呪いは形代をどす黒く染め上げ、最後はオレンジ色の炎を上げて焼き尽きた。



