芽が肩を竦めてくすりと笑った。
「どうせ父さんも俺を始末しに来たクチでしょ。そもそも社を襲撃されて、そこの宮司が黙ってるわけないもんね」
「そうじゃない」
即答した隆永に、芽は眉根を寄せた。
「これまで父親としてお前たち二人にちゃんと向き合ってこなかった。二人に寄り添うべき場面で、いつも自分の事や社の事ばかりを優先して、二人の声を聞いてやれなかった。こんな俺に、今さら父親を名乗る資格はないと思ってる」
隆永は僅かに視線を逸らして俯いた。垂らした手を軽く握りしめる。
芽に切られて何日も傷口の痛みに魘され続け、幸が死んだ日の夢を何度も見た。
鮮明な夢だった。静かな道場や冷たい空気、この腕から命が零れていく感覚も全て。
けれど、何度同じ夢を見ても分からないことがあった。そこだけ黒塗りされたように見えなかった。
あの夜、子供たちはどんな顔をしていただろうか。
あの夜だけじゃない。その次の日は、神葬祭の日は。どんな顔をして、どんなことを喋っていた? 母親を失った子供たちの心境を聞いてやったか? 眠れない夜にそばに居たか?
何一つ覚えていない。何一つ分からない。
なぜならば幸が死んでから、自分は子供たちのことを一度も気にかけていなかったからだ。
自分の事ばかり考えて、何も見えていなかった。
あの子たちが頼れる大人は自分しかいなかったはずなのに、手を差し伸べることも小さな背中を抱きしめることも涙を拭うこともしなかった。



