「……言霊の威ここに満ちて威を顕し 荒ぶる禍津禍群を悉く祓い断つ」
喉が震える。青白くなっていく母親の顔が脳裏をよぎった。
あの日母さんを呪わなければ、きっとこんな未来にはならなかった。始めたのは俺だ。だったら全てを終わらせるのも、俺の役目だ。
「形を縛り 名を正して顕し 逆らうもの悉く───」
予想外の衝撃に呪詞を唱える口が止まった。
「もういい、薫。大丈夫だから下がってなさい」
そんな声と共に、大きくて分厚い何かが薫の頭を軽く叩いた。驚いて振り返るよりも先に、誰かが隣をすり抜ける。一瞬見えた横顔に言葉を失う。最後にその顔を見たのは、もう二十年以上も前のことだ。
白衣を身にまとった広い背中を、昔はもっと低い位置から見上げていた。
「いい加減にしなさい、芽」
腹の底に響くような低い声が名前を呼んだ。芽が僅かに目を見開いた。
「父、さん」
記憶の中よりも随分とくたびれて年老いたその男は、紛れもなく自分たちの父親の神々廻隆永だった。



