帰る場所を用意してやりたかった。居場所があれば戻ってくるんじゃないかと思っていたから。だから教師になって神修に残った。
でももうそれも意味がない。だって俺が帰りを待っていた芽は、もうこの世のどこにもいないのだから。
いつまでも帰りを待ち続けていれば、嬉々も禄輪のおっさんも、可愛い教え子たちも仲間も、みんな失うことになる。
今日、ここで、俺が殺すしかない。
小さく息を吐き出す。腹の奥底に沈めていた呪が沸騰前の湯のようにふつふつと湧き上がってくるのを感じる。
言祝ぎと呪が同じ量の場合、ぶつけ合えば力は相殺される。それは禄輪からも習っているし、昔神修時代に芽と何度か試したこともあったので分かっている。
ただ一つ気になっていたことがあった。
言霊の力を持って生まれた子供は成長するにつれ言祝ぎの総量が減っていき、代わりに呪を蓄積してしまう。呪が上回らないように日々研鑽するのが神職の常識だ。
つまり、言祝ぎは減るもので、呪は増えるものなのだとしたら、それは自分たちにも当てはまるのではないか。
もし当てはまるのだとしたら、今の自分たちの力は等しくない。力の総量だけで言えば、今の自分は芽を上回っている可能性がある。
だこら自分が呪詞を唱えれば、芽は────。
僅かに唇が震えた。小さく唾を飲み込み、静かに目を閉じて集中する。
人を呪うのは、母さんを呪ってしまったあの日以来だ。



