「……ッ、俺らには攻撃しないんじゃなかったのか?」
「これは攻撃じゃなくて防御だよ。俺だって痛いのは嫌だし」
「お前は昔からああ言えばこう言う男だよなッ」
勢いよく膝を突き出して芽の鳩尾を蹴り上げた。咄嗟に手のひらを噛ませたものの、芽が顔を顰めて歯を食いしばる。
「────ッ、天地の真清水の産霊に化生座せる水産霊弥都波能売神の幸魂感け通わせ守り給え幸え給え 今も賜る天津水を天之真名井の真清水と受けしめ給え 此の水はただ水ならで天にますとよわか姫よ宮のみ水ぞ 此の水はただの水ならで天にますみおやの神のみめぐみの水 盛るときは形にまかせて善悪をうつすは生きた水のかがみ!」
嬉々の素早い奏上が終わると共に、薫に馬乗りになっていた芽の身体が一メートル後方に飛んだ。尻もちをつくと同時に、ポンッと音を立てて人形の紙切れにかわる。
目を見開いた。昔からアイツは形代操術が誰よりも上手かった。
「嬉々、芽の形代だ! 気を付け────」
振り返って息を飲む。嬉々を後ろから抱きしめるように首に腕をかけた芽が、ジッとこちらを見ていた。顔を顰めた嬉々が苦しげに身じろぐ。
「暴れないで、嬉々。怪我しちゃうよ。薫もだよ。今攻撃したら誰に当たるか分かるよね?」
芽が腕に抱く嬉々を前に突き出した。怒りのあまり全身が震えた。
「お前……本当に地の底まで落ちたな」
「酷い言い草だな。二人が邪魔するんじゃ、こうするしかないだろ」
その時悟った。
もうダメなんだ。いくら芽に対話を求めても、説得を試みても、もうこいつは自分たちの知っている神々廻芽ではないのだ。



