あの日、母さんが死んだ日。
この力に絶望して塞ぎ込んだ俺を、この世界へ引っ張り出してくれたのは紛れもなく禄輪のおっさんと芽だった。拒絶し続ける俺に根気よく接してくれて、沢山の景色を見せてくれて、色んな感情を教えてくれた。
芽はずっと自分に手を差し伸ばしてくれた。だから俺も、いつかお前が俺の助けを必要としてくれる日が来た時は、必ず手を差し出すつもりだった。
なのにお前はどうして、誰にもその苦しみを打ち明けず背を向けてしまったんだ。最後に会った18のあの日、どうしてこの手を掴まなかったんだ。
俺と嬉々は何も望んでいなかった。ただ前と同じように、お前と過ごしたかっただけなんだ。馬鹿やって笑い転げて、悪戯をして叱られて拗ねて、そういう何気ない日常がこれからもずっと続いていくだけでよかった。ただそれだけなのに。
何が「絶望させたくない」だよ。何が「守りたいだよ」。全部お前が勝手に言い出したことだろう。俺たちはそんなことこれぽっちも望んでない。
「勝手に突っ走って収拾つかなくなってるだけだろ。いつまでもガキみたいなことしてんなよッ!」
炎を抜けて芽に向かって飛び出した。案の定間合いに入っても芽は攻撃しようとしてこない。
言霊を分け合った双子は同じ総量の呪と言祝ぎを分け合うことになる。そのせいで同じ祝詞をぶつけ合えば相殺されてしまうのを分かっているからだろう。
薫の手が芽の胸元を捉えて掴んだ。思い切り拳を振り下せば、素早く空いた手で弾かれる。体勢が揺らいだところで、片足を引っ掛けてきた芽は胸ぐらを掴む薫の手を斜め下に引っ張り床に組み伏せる。



