芽が胸の前で手を合わせた。よく通る明朗な声が無情にも言祝ぎを紡ぐ。穏やかで心地よい、祝福に満ちたのびやかな声だ。
今や敵になった芽が言祝ぎ持ちで、それを阻止しようとする自分が呪持ち。なんて皮肉なんだろう。
紡がれる言葉は正確で言祝ぎの総量も桁違いなだけあって、祝詞の威力は凄まじい。風神の力を借りて風を起こせる程度の風神祝詞でさえ、芽が奏上すれば大型台風並みの風を起こした。
本殿の床板が音を立てて外れ中に舞い上がる。黒狐が放った怪し火が風に煽られ火柱となって天井を燃やした。
「生置て来ぬと宣て返座て 更に生子 水神 瓢 川菜 埴山姫 四種の物を生給て 此の心悪子の心荒ひそは 水神 瓢 埴山姫 川菜を持て 鎮奉れと 事教へ 悟給ひき 依之て雑々の物を備て 天津祝詞の太祝詞の事を以て 稱辭 竟奉くと申す……ッ!」
禄輪の鎮火祝詞が響き渡る。火柱が竜巻に巻き込まれ用にうずを巻いて次第に細くなっていく。
禄輪の長髪が熱気で激しくはためいた。持ち上がった前髪の下から鋭い眼光が覗く。
「薫、嬉々ッ、こっちは私たちで何とかする! お前たちは芽の所へ行け!」
あれだけ「子供だなんだ」と理不尽な理由をつけて渋っていた禄輪を思い出す。少しは自分たちの成長を認めてくれたということだろうか。
禄輪が炎を引き裂いた。行け、と怒号が飛ぶ。その言葉に背を押されるように床を蹴り上げた。



