「二人には、俺が経験したような絶望を味わってほしくないんだよ。この世の全てに落胆し、何一つ信じられなくなる。残ったのは、ただ愚か共に消費されていくだけの日々だ」
「若いお前の苦悩をわかってやれなかった私たち大人が全て悪いんだ。だからお前は、もうそれ以上罪を重ねないでくれ」
禄輪が顔を顰めて語りかけた。その声には強い後悔の色が滲んでいる。
当時、まだ力も安定せず上手く使いこなすことができなかった薫にばかり気を取られて、芽を気にかけてやれなかった。芽も薫と同じ十代の少年だ。どれだけ優秀だったとしても、大人が最後まで見守ってやるべきだった。
「あなたは悪くありませんよ、禄輪さん。悪いのはあくまで学生を戦地に送り出し、審神者さま一人に全てを背負わせた本庁だ」
芽が穏やかに微笑む。「さて」と体を起こして立ち上がった。神職たちが一斉に体勢を低くして警戒を強める。
「俺には果たすべき最終目的が二つあるんだ。二人とは戦いたくないんだけど、そうも言っていられないみたい。ああ、でも安心して。俺は薫と嬉々には絶対に手を出さないから」
学生だった頃は、突然の裏切りに困惑し、自分の中にある何かが半分かけたような喪失感が苦しかった。けれど今は違う。
離反したのは芽が自分で選んだ道で、本庁を恨むのも芽の感情だ。それなのに「守るため」だと自分たちの存在を利用し、罪を仕方の無いことだとしようとしている芽に心底腹が立った。
腹が立って、同時に遣る瀬無い気持ちになった。
どうして芽はあの時、自分たちにその苦しみを一言も漏らしてはくれなかったのだろうか。そんなに自分たちは、悩みを打ち明けることができないくらい頼りない親友だったのだろうか。



