言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


泰紀は手ぬぐいで来光の手の傷を縛ると、目を瞑って小さく息を吐く。


「復讐のためじゃない。仲間を守るために、後悔しないために、俺たちは戦ってんだろ」


再び目が合った時、その顔は紛れもなく神職の顔だった。

手を差し出した。意外そうにその手を見た泰紀がパンッと音を鳴らせて手を掴む。勢いよく引っ張りあげる。気を失なったのか青い顔で目を瞑る二人の前に立った。


「背中は任せる。死ぬなよ」


そう声をかけると、泰紀がニヤリと不敵に笑う。


「恵理を泣かせるようなことはしねぇよバーカ。お前も惚れた女泣かせんなよ」

「……は? 誰のこと言ってるんだ」


振り返って泰紀を睨むと、意外なことにやけに真面目な顔をした泰紀がこちらを見ていた。その視線が妙に気まずくて顔を背ける。


「いい加減認めろよ。自分でも分かってんだろ。うかうかしてたら取られちまうぞ」


泰紀の言葉に俯いた。

思うところはある、心当たりもだ。

ただそれを泰紀に指摘されたことに腹が立って、気持ちを周りに悟られている事実が恥ずかしく、むっつりと黙り込み返事はしなかった。

その時、移殿のほうから騒がしい音がして振り向いた。本殿の入口を守っていた神職たちが後から駆け付けた黒狐たちから攻撃を受けて押し負けた瞬間だった。

泰紀が落とした木の板を拾い上げて投げた。手元を確認するまでもなく軽々と片手で掴むと感覚を確かめるように軽く振り回した。


「行けるな泰紀」

「あたぼーよ!」


黒狐たちが勢いよく室内に雪崩込んでくる。泰紀は木の板を構え、恵衣は柏手を響かせた。