泰紀が叫ぶと同時に、目尻から大粒の涙が一粒こぼれ落ちた。豊楽の瞳が同様で揺らぐ。掴まれた腕を掴み返す。
「俺は何もできずに、先輩も、親友も失ったんだよ! 今度もまた、何もせずにただ見てろっていうのかよ!? あんたらにだって分かるだろ!? 先の戦で仲間を失ったあんたらなら、俺の気持ちがッ!」
何も出来ず為す術もなく、目の前でただ消えていく灯火を見つめることしか出来ない。どれだけ学んでも、どれだけ経験を積んでも、消えゆく命の前で自分たちはずっと無力だった。
もう二度とそんな光景は見たくない。誰かの死を見たことのある人間なら、きっとそう思うだろう。
「守られてばっかじゃ、守りたいもんも守れねぇ。そうだろ先生ッ!」
頼むよ、と力なく呟いたその瞬間、泰紀とまとめて強く抱き寄せられた。
桐箪笥の匂いと汗臭さ、包み込まれるよう温もり。強ばっていた身体中の力が抜けて、無性に目頭が熱くなる。
「私は、大切な人を守れなかった。今もまだ、その後悔と苦しみの中にいる」
豊楽から家族の話を聞いたことはないけれど、左手の薬指には小ぶりの指輪が嵌められているのを知っている。
彼もまた、失った痛みと何も出来なかった無力さを抱えて生きている側の人間だ。
「ただ、それは私にとって君たちも同じなんだ。君たちにもしもの事があれば、私だけじゃなくより多くの人がまた後悔と苦しみを味わうことになる」
だから、と豊楽が体を離した。
「私も行こう。お互いに、後悔を断ち切るために」
泰紀がくしゃりと顔を歪めた。ありがとう豊楽先生、と震える小さな声で呟く。



