言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


首を掴む手の力が強まった。もう声すら漏れなかった。


「お主も、友の元へ逝くといい」


天司が指を揃えた腕を後ろに引いた。腹めがけて突き出されたそれに、衝撃を覚悟したその時。

目の前で束ねた黒髪がサラリと揺れた。

ぐちゃと肉が潰れる生々しい音がして、来ると思っていた痛みはいつまで経っても来なかった。

驚いたように目を丸くした天司が何かを見下ろしている。首にかけられていた手が緩んで床に落ちた。激しく咳き込みながら顔をあげる。見慣れた小さな背中に天司の腕が貫通し、血が滴り落ちていた。


「亀、世……?」


勢いよく腕が引き抜かれ、小さな背中から血が吹き出す。支えを失った身体は、そのまま床に崩れ落ちた。

感情を宿さない眼差しでそれを見ていた天司は、くるりと背を向けて歩き出す。


「ま、待てよ、おい、待てって……」


その背中を追いかけようとしたその時。


「鶴吉ッ!」


瑞祥が名前を呼んだ。地面を這いながら亀世の元へ向かおうとしていた。

ハッと我に返った。床に倒れ込む妹に、転がるように駆け寄ってゆっくりと抱き寄せた。顔が白い。瞳の光が少しづつ弱くなっている。背中に回した腕に、ドクドクと血が流れ出ている感覚がある。


「つる、ずいしょ……」

「だ、誰か……誰かッ! 妹が、亀世がッ!」


這い寄ってきた瑞祥が治癒祝詞を奏上しようとするけれど、先程の戦闘で言霊を使い果たしたのか、何度唱えても傷口が上手く塞がらなかった。鶴吉も同じだった。