さんきゅ、と短く答えた瑞祥が鼻血をぬぐって直ぐに体勢を整えた。二人同時に反対方向へ走り出す。天司を間に挟むような陣形を取った。
瑞祥が床を蹴り上げて天司が視認するより一秒早く動き出した。後ろから大きく振り回した蹴りが鳩尾に入る直前で、幹のように太い天司の腕がそれを掴んで防いだ。すかさず掴まれた足を軸にして体をひねり、反対の足を天司の顎めがけて振り上げる。住んでのところで掴まれて宙ずりになった。
「天地の真清水の 産霊になりませる水産霊弥都波能売神の幸魂 かまけ通わせ守り給え幸い給え!」
鶴吉の奏上と同時に、亀世の足首を掴む天司の手が何かに弾かれるように振り切れた。
床に落ちると同時に素早く受け身の体勢をつくり、天司から距離を取る。十分距離を取っているのを確認して素早く胸の前で柏手を打った。
「天切る 地切る 八方切る 天に八違 地に十の文字 秘音 一も十々 二も十々 三も十々 四も十々 五も十々 六も十々 ふっ切って放つ さんびらり!」
ザッと肉を切り裂く嫌な音とともに天司の羽の付け根に十文字の傷が入った。血が飛び散り、黒い羽根が宙を舞う。
しかし、その程度に傷では傷とは呼ばないらしい。ゆっくりと振り返った天司の瞳には、怒りの炎が宿っていた。
「童に刃を向けるは、我が矜持に悖る。────が、もはや悠長なことは言っておれぬか」
天司が目を細めて3人を睨んだ。半身を引いて胸の前で手を構える。これまでとは違う格段に強い殺気、紛れもなく戦闘態勢に入った証拠だ。
横目に、瑞祥の身体が僅かに震えたのが分かった。



