ありがとな、と肩を叩いた鶴吉はわざとらしく「寒ぃ」と肩を縮めながら亀世の隣に戻って行った。
亀世が飛び出していくかは分からないけれど、彼女のことをよく理解している鶴吉がああいうくらいだ。ほぼ間違いなく飛び出していくだろう。
となると薫に嬉々、鶴吉に亀世がいなくなるわけだ。
ふと、前を歩く瑞祥の背中が目に入った。
チラリと見えた横顔は、開戦前の緊張なのか酷く険しくどこか殺気立った顔をしている。
友人関係だった亀世や鶴吉ですらあんなにも思い詰めている。だったら恋人を失った瑞祥はどうだ。
握りしめた慶賀の手から温度が消えていく感覚を思い出した。そして慶賀の顔が、彼女の顔に置き換わる。白くなっていく頬に、光の消えた瞳。自分の腕の中からこぼれ落ちていく命。
その瞬間、計り知れない恐怖と絶望が胸の中を支配して一瞬で呼吸の仕方を忘れてしまう。それと同時に、燃え盛るような激しい怒りが全身を包み込む。
ああ、間違いない。瑞祥は、亀世と同じように天司に復讐しにいくはずだ。
「恵衣ちょっといいか……ってお前、なんちゅー顔してんだよ」
肩を掴まれて振り返ると、怯えた顔でこちらを見ている泰紀と目が合った。
「どうした?」
「いや……なんでない」
「ならいいけど……でさ、一個相談があるんだけど、ちょっと耳貸してくれ」
その物言いに嫌な予感がして、泰紀をじっと見つめる。自分の視線をバカ正直に真正面から受け止める泰紀。これまでに、こんなにも真剣で真面目な顔を見せたことがあっただろうか。



