由緒正しき宜家の長男。将来は社を継ぐことを期待されていて、下には幼い弟妹もいる。真面目で、勤勉で、優秀であることを求められ続けられる日々の中で、神修にいる間は素の自分を出せた。
呆れることもあったけれど、同級生と馬鹿なことをして大人から怒られる毎日は楽しかった。
楽しいことだけじゃない。悔しいことも悲しいこともあった。どうにも出来ない壁を目の前にして絶望することもあった。それでも今こうして戦い続けられるのは、いつも近くに彼らがいたからだ。
間違いなく自分の背中は、ずっと皆に支えられてきた。
四肢の末端が冷たくなって、体から力が抜けていく感覚がする。言霊が尽き始めている証拠だ。
後頭部に当たる来光の肩に自分の頭を乗せた。少し視線を動かすと、来光と目が合う。こんな時だと言うのに、来光はメガネの奥の瞳を細めてにっと笑った。
「意外と早く慶賀に会いに行くことになったな」
そんな物言いに小さく吹き出した。
恐らく略拝詞を唱えられるのはあと一回が限界だろう。これが最後になるのなら、宜家の長男として、彼らの親友として、誇れる奏上で終わらせたい。
高らかに、清らかに、不浄を振り払う柏手を響かせた。
「祓え給い」
来光と嘉正の声が合わさった。
これまでのことが次から次へと脳裏を過ぎる。
「清め給え」
確かに来光の言う通り、悪くない人生だった。



