言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


片手で流血する左目を抑え、もう片方の手で来光の身体を押した。物言いたげな来光が一瞬こちらを見た。

床を這って来光の背中に回った。背中を預ける。

来光の奏上が途切れるその瞬間に、胸の前で柏手を打った。


「祓え給い 清め給え 神ながら守り給い、幸え給え! 祓え給い 清め給え 神ながら守り給い、幸え給え……ッ!」


来光が奏上を止めた。肩で息をしているのが背中越しに伝わってくる。


「嘉正ッ……大丈夫なのか?」


返事の代わりに深く頷く。


「見ての通り、状況は最悪ッ……嘉正の言霊もすぐに尽きるだろ。絶体絶命、って感じ……」


はぁ、と深く息を吐いた来光は数回むせたあと嘉正の肩に頭を預けた。


「あと数分後には死ぬかもしれない最悪な状況なのにさ、今思うのは"悪くない人生だった"なんだよなぁ……」


来光の声が湿って語尾が僅かに震えた。

堪らず自分まで泣きそうになった。きゅっと閉まる喉を必死に開いて奏上を続ける。


「確かに皆に会うまではクソみたいな人生だったけど、中等部に入って皆に出会って親友になって、馬鹿なこと沢山してさぁ……」


遺言のようなその台詞に「馬鹿なことを言うな」と叫びたかった。でもかろうじて祝詞を奏上できる程度の力しか残っていなかった。


「本当に、皆に出会えてよかった」


それはこっちのセリフだ。

心の中でそう答えた。