"少し前"の状態に戻った形代は、テーブルの上でぶるぶると震え出したかと思うと下から風に煽られたように中に舞い上がった。
そして締め切られた障子に向かって直進し、べしゃりと当たってへばりつく。まるで部屋から出たがっているかのように見えた。
神職たちの目付きが変わった。
「全員聞け!」
騒がしかった室内が、水を売ったように静まり返った。
「来光が形代を送ってきた。間違いなくこの先にいる! 10分後に出発だ!」
返事の代わりに、冴え渡った柏手がひとつに揃って花火のように芯のある音を響かせる。神職たちは合わせた手を、そのまま祈るように胸の前で握りしめた。
そしてすぐさま各々に準備を始める。
呆然とその様子を見ていると、ポンと肩を叩かれた。わくたかむの社で世話になった禰宜の五宮百だ。娘の千歳を抱きかかえている。
「格好いいだろ? かむくらの神職の敬礼みたいなもんだよ。柏手は奉仕の精神を、握り手は団結を表してるらしい。敵味方の区別にも使ってるから覚えとけ」
千歳がキャッと笑い声を上げて柏手を真似して見せる。
己の両手を見下ろした。
奉仕の精神と、団結。
胸の前で柏手を鳴らし、合わせた手をぎゅっと握りしめる。体の芯が引き締まるような感覚がした。
来光や嘉正、慶賀に聖仁。次々とみなの顔が脳裏をよぎる。最後に浮かんだのは、別れ際に不安と恐怖を押し殺して自分を見つめる巫寿の顔だった。
「……待ってろ」
握った手を額に当てて小さくそう呟いた。



