「……来光だ」
「え?」
「これは、来光の形代だ」
泰紀が驚愕の表情を浮かべる。
弾けるように屯所の中へ転がり込んだ。神職を押しのけ、幹部陣が座るテーブルの前まで突き進む。
「恵衣? どうした?」
血相を変えた恵衣を、珍しいものでも見たような顔で薫が話しかけた。持っていた布切れを突き出す。
「来光の形代が雨戸に張り付いてました。間違いなく来光の字です」
ガタッと椅子をひっくり返して立ち上がった薫が、恵衣の手からそれを受け取る。険しい顔で形代を確認した薫は、すぐにそれを禄輪に差し出した。
「間違いない、僅かに来光の言祝ぎを感じる。禊の滝で落ちたんだ。オッサンお願い」
すぐさま状況を理解した禄輪が形代を受け取ると、テーブルの上の書類をがさりと乱暴に避け形代を広げた。
パンッと、深みのある大きな柏手が響き、背筋に電流が走るような感覚が流れた。
「掛けまくも畏き 時量師神の大御前に白す 既往の刻を 須臾に復し給《たま》へ」
禄輪の明朗な声が腹の奥底に響く。
次の瞬間、乳白色の光が形代を包み込み、形代に染み込んでいく。光が全て吸い込まれたあと、テーブルの上には白いハンカチが残っていた。
『松山来光』
真ん中には血文字でそう書かれていた。
「今のは……」
「物の状態を少し前に戻す祝詞。時間まで操るとかバケモンだよねぇ。あはは」
薫の説明に目を剥いた。
時間を操る祝詞なんて聞いたことがないし、それを何ともない顔でやってのける禄輪にも言葉が出てこない。



