「ぬらりひょんは?」と泰紀が尋ねる。ふむ、と顎に手を当てて首を捻った。
「ぬらりひょんは念動が厄介だからな……防御の祝詞奏上が上手い神職をメインに揃えてくるんじゃないか?」
なるほどな、と泰紀が目を細めて頷く。
なぜこの人はこんなに頭がいいのに、その知識をろくなことに使わないんだろうか。
まぁあくまで予想だが、と付け加えた亀世は、薬箱の中をガサゴソと漁り始めた。
「ああ、あんたらここにおったんか」
顔をあげると自分たちを見下ろす千江の姿があった。割烹着姿で菜箸を片手に持っている。
「軽食作ったから手空いてるなら今のうちに食べな。いつ出発するか分からんし」
「さんきゅ、千江さん」
笑った泰紀にどこかもの言いたげな顔をした千江は、ひとつ頷いて泰紀の頭を軽く撫でた。
集中力も途切れた頃合だったので、皆立ち上がり千江に続いて廊下に出る。その時、背後でカタカタと誰かが雨戸を揺らすような音がした。
振り返った。誰の姿もない。
怪訝に思いながらも歩き出すと、また立て続けに音が鳴る。
「恵衣?」
歩みを止めた恵衣を不思議に思ったのか泰紀が戻ってきた。
「どうかしたか」
「音がする。誰かが雨戸を揺らす音だ」
「風なんじゃね」
「風なら他の雨戸も揺れるだ」
カタカタ、カタカタ、とまた雨戸が揺れる音がした。泰紀にも聞こえたらしく、音の出処を探るべく来た道を戻り始める。



