「で、空亡を利用する理由だけど……これはただの嫌がらせだよ」
ふふ、と目を細めた芽。来光の瞳が動揺で揺れる。
嫌がらせ……? 嫌がらせってどういうことだ。この人はただ嫌がらせをする為だけに、あの大妖怪を利用しているのか?
「必死に自分たちの周りを固めて、先の戦で空亡から逃げ果せた本庁のクソ共。そんな奴らを殺すなら、空亡に殺させた方が面白いでしょう」
もう何も言えなかった。
この人は、神々廻芽は人じゃない。復讐に囚われ、完全に人の心を失っている。
「正直俺一人じゃどうにもならなくてさ。俺の目的が達成されたあとの世界は好きにしていいって契約で、伊也たちには手伝ってもらっているんだよ」
一族を裏切った妖狐、平気な顔で人を殺す烏天狗にぬらりひょん。この妖たちに乗っ取られた現世がどうなるのかなんて、考えなくてもわかる。
この人にはもう、何を言っても無駄なんだ。この人を止めるには、この世界を守るには、生ぬるいやり方じゃダメだなんだ。
慶賀も聖仁さんも殺された。 怖い。怖くてたまらない。僕なんかが敵うわけがない。
でも他のみんなはこの場所のことを知らない。嘉正はもう動けない。神々廻芽に手が届くのは、今この場にいる僕だけ。
────時間は、十分に稼いだ。
嘉正の影で書いていた最後の1文字が完成した。
白いハンカチに血で書いたのは自分の名前、簡易の形代だ。顔の前に持ち上げて勢いよく息をふきかけた。ポンッと白い煙を上げて白い鳥の形に変形する。
形代操術だけは、 他のみんなよりも練習した。



