「俺ね、人を殺せないんだよ。この言祝ぎのせいで」
芽は疎ましそうに自分の掌を見つめてため息を吐く。理解するのに数秒かかった。
人を、殺せない?
「俺が今ここで言霊を使って『死ね』と言ったところで、君にはなんの効果もない。ほかの呪詞に関してもそうだ。俺が口にしたところで、何一つ効果は発揮されない。俺の中に"言祝ぎ"────"祝福を与える力"しかないからだ」
言霊の力は二つの要素、"呪"と"言祝ぎ"から成り立っている。しかし生まれてくる子供が双生児で言霊の力を有していた場合、その多くは力が分離する。一人は言祝ぎ、一人は呪。片方は言葉に祝福のみを宿し、もう片方は口を開けば呪いを生む。
そうか、呪が殺す力なら言祝ぎは『生かす力』。神々廻芽はその言祝ぎがあまりにも強いあまり、人を呪うことができないんだ。
「言霊の力って、全身を巡ってるでしょ? だから俺そのものが祝福の塊みたいなものなわけ。だから物理的に誰かを殺そうとしても、どうしても上手くいかないんだよね」
まるで、最近は天気が悪くて布団が干せない、と愚痴をこぼすような軽さだった。
「虫とか小動物程度なら殺せるんだけど、人はどうしても無理みたい。だから"終わらせる"力を持つ、三種の神器の力を借りたいわけ」
これが理由その一、と人差し指を立てた。



