ドサリと床の上に落とされて呻き声をあげた。なんとか踏ん張って重い首をあげる。
壁の四隅に松明が灯された広々とした部屋だった。古びた木の深いく甘い匂い。正面には崩れかけた祭壇があって、廃屋だと思っていたここはどこかのお社だったらしい。
その崩れかけた祭壇に腰を下ろし、頬杖をついてこちらを見ている男がいた。肩までつく長髪に片目を眼帯で隠し、黒い着流しに身を包んだその男は目が合うなり柔らかく微笑んだ。
「いい月夜だね、松山来光くん」
まるで敵意なんて一切感じない、言祝ぎに満ちた声。一瞬油断してしまうその優しい声が、この男の一番恐ろしい部分だ。
「神々廻芽……ッ!」
「"様"をつけんかいクソガキ!」
甲高い声で怒鳴られて、後ろから髪を掴まれた。頭皮に長い爪が食い込み、一瞬行きが止まって喉の奥から空気が漏れる音がした。
視線を向けると伊也が自分の紙を掴んでいた。その後ろにはぬらりひょんも烏天狗の天司も立っている。
「いいよいいよ伊也。この歳の子供はこれくらい生意気なもんさ」
ははは、と笑った芽は伊也を宥めるように軽く手を振った。
ふん、と鼻を鳴らした伊也が勢いよく手を離す、左頬を床に打ち付けたところで、部屋の隅に転がっている人影を見つけた。
所々が赤く染まった水色のジャンパーは、間違いなく嘉正のものだった。
「嘉正……ッ! 起きろ嘉正!」
「あ、その子嘉正くんって言うの? 天司、嘉正くんを起こしてあげて。面倒だから二人同時に喋りたいし」
承知、とひとつ頷いた天司が嘉正に歩み寄った。



