伊也が来光の腹の上に馬乗りになった。右足で右肩を踏みつけ、左手で来光の右手首を抑える。空いた手でするりと髪に刺さっていた簪を引き抜くと、銀色のそれは先端がギラリと鈍く光った。
息を飲んだ。その次に何が起きるか安易に想像ができた。
怯えた表情に気付いた伊也が恍惚とした表情で来光を見下ろす。
『怯えた顔して可愛らしいなぁ。でもあんたが悪いんやで? うちの手を煩わせるから、うちはこうするしかないんやわ』
真っ赤な下で銀の簪を舐めた伊也が目を細めた。
『あんた、書宿の明があるんやてね。それで、利き腕は右か?』
『み、右じゃない』
咄嗟に首を振った。伊也の目が興奮で見開かれる。簪が振り上げられた。
『────神職は嘘をついたらアカンのとちゃう?』
また逆流してきた胃液にハッと我に返った。全身に脂汗が滲み心臓が警鐘のように脈打っている。必死に息を吸いこんで荒い呼吸を落ち着かせた。
落ち着け、落ち着け。今のうちに状況整理だ。動けなくてもできることはある。
深く息を吐き、静かに目を閉じた。
覚えている範囲では、自分と嘉正は夜中に天司に攫われて、明け方頃にここへ連れてこられた。それから恐らく1、2時間後に伊也に別の部屋へ引っ張られ尋問が始まった。
風の冷たさからして、ここへ連れてこられてから丸一日は経っている。部屋の外には黒狐族の連中が歩き回る気配がある。尋問が始まる前と同じだ。つまり伊也たちはまだ何も情報を手に入れられていないということだ。



