言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


ふたりが攫われたと気付いた時、自分も一番にその可能性を考えた。向こうは俺たちが筆を回収したと気付いている。なんとしてでも筆を奪いに来るはずだ。

それなんですが、と口を開く。神職たちの視線が集まった。

『巫寿ちゃんと二人で逃げろ』

懐の上からそっと触れる。背中に札を叩きつけた来光が、その際にポケットにねじ込んできたものだった。

ずっとただのガリ勉で、習ってきたことをその通りにしかできない残念なやつだと思っていた来光は、あの場で誰よりも柔軟だった。


「筆は俺が持ってます」


懐に収めていた筆を取り出してテーブルの上に置いた。神職たちが分かりやすく息を飲む。


「だったら尚更生かされているはずだ。どうにかして筆の在処を吐かせようとしてくるだろうからな。ただ、芽の配下達がどんな方法を使ってくか分からん以上、やはり嘉正と来光の救出を最優先にしよう」


その時、対面にいた若い神職のひとりが拳でテーブルを叩き付けた。あまりの勢いにテーブルが軋む。室内は一瞬で静まり返った。

その神職がゆるりと顔をあげる。今にも掴みかかりそうなほど血走った目をしたその神職の顔には見覚えがあった。


「ふざけんじゃねぇ。巫寿の保護が最優先だ」

祝寿(いこと)、やめろ」


何度か行事で見かけたことのあるその顔、丸い目と柔らかく弧を描く眉毛は巫寿によく似ていた。巫寿の兄の、祝寿だ。