「巫寿ちゃん」
耳元で来光くんの声がしたけれど、目が開けられず確認ができない。冷たい風が吹き荒れる中で、私の両肩に温かい手が乗せられる。
その瞬間、何故か激しい胸騒ぎがして、喉の奥が詰まった。
「巫寿ちゃんなら……巫寿ちゃんと恵衣なら、きっと出来る」
ガラス片が吹き荒れる中で、話すことなんてできるはずがない。口を開けばガラス片が喉に突き刺さるはずだ。
「二人なら絶対に大丈夫だ。ずっと傍で一緒に勉強してきた僕らが保証する。二人は強い。絶対に負けない」
その声はまるで自分のすべきことを見つけたかのように確かで、穏やかで、力強い。
震える。これは、失う前の恐怖だ。
「だからさ、────あとは任せたよ」
聖仁さんを亡くしたあの夜も、慶賀くんを失ったあの夜にも感じた途方もない喪失感。身を引き裂かれるような絶望が私の心臓を鷲掴みにした。
錫杖と、大きな翼がはためく音が迫ってきている。
「行け、巫寿! 恵衣ッ!」
それは嘉正くんと、来光くんの声だった。
強く背中を押された。転がるように走り出す。嫌だと心は叫んでいるのに、本能が足を動かした。
誰かが私の腕を引いている。うっすらと目を開けた。見慣れた背中には恵衣くんの「姿くらましの御札」が貼ってあった。
必死に振り返った。
砂塵のようにガラス片が吹き荒れる中に、振り上げられた錫杖と飛び散る赤を見た。



