「え、え、何!?」
唯一状況が分かっていない凛花ちゃんが戸惑いながら何度も振り返る。
「いいから黙って走れ一般人!」
恵衣くんが喝を入れて先頭の嘉正くんに追い付いく。どうした嘉正!と噛み付くように声を荒らげた。
「恵衣も見ただろ、あの残穢を!」
嘉正くんが焦りを滲ませた顔で後ろを確認しながら走る。
あの残穢、たしかに私も見た。給湯室の扉を開けた瞬間、まるで水を含ませたドライアイスのように奥からぼわりと溢れ出た残穢だ。あの量は異常だった。
「俺も変だと思ってたんだ。土蜘蛛一匹にこの残穢の量はありえない。それに『自殺で死んだ少年の幽霊』って噂話も引っかかってた」
全力疾走を続ける嘉正くんは苦しげに唾を飲み込んで警戒するように当たりを睨む。
「巫寿から前に教えてもらっただろ、"あの条件"を!」
あの条件、私たちにはそれだけで十分だった。
ナイフを突きつけられたような緊張感が走り、背筋を冷たい汗がたらりと流れた。
遅れを取り始めた凛花ちゃんの腕を掴んで必死に足を回す。
異常なまでに溢れている濃厚な残穢、中学生くらいの少年の姿をした霊。
もし間違いじゃないのなら、その霊は十数年前からずっとバラバラになった自分の身体を探し続けている一人の少年。
「空亡の肉片がここにあるかもしれない!」



