「にしてもこの残穢、ほんとに何? なんかあの時のこと思い出すんだけど」
鼻をつまんだ来光くんは煙をはらう様に顔の前で手を振った。
あの時のこと、といえば1年の時に校内で空亡の残穢が封印されていた場所へ辿り着いてしまった時のことを言っているのだろう。
あの時よりかは酷くは無いけれどたしかに嫌でも思い出す。
長居すれば私たち以上に、凛花ちゃんに影響が出るはずだ。
足音を立てないように小走りで廊下を進む。遠くで土蜘蛛歩き回る足音が聞こえて、凛花ちゃんが「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。
霊感はなくても、力の強い妖なら一般人でも目視することができる。あのレベルの土蜘蛛だから凛花ちゃんも襲われた時にしっかり見たのだろう。
私ですらゾッとするくらいだ、トラウマにならないといいんだけど。
かつかつかつ、と床に爪があたる音が次第に近付いてきた。先頭を行く嘉正くんが手をかざして合図する。私たちは歩みを止めて体勢を低くした。
響くような足音、土蜘蛛が上の階から降りてきている。
「走る?」
「いや、隠れるぞ」
「オッケー」
冷静に応えた嘉正くんが、一番近いの扉に手を伸ばした。給湯室という札がかかってある。
扉を開けて────勢いよく閉めた。ピシャンッと大きな音を立てた。続けざまに「走れッ!」と声を荒らげる。条件反射のように足が動いて、皆は一斉に走り出した。



