「ご、ごめん! 大丈夫!?」
「いいから、早く、降りろ……」
地の底を這うような低い声で睨まれて凛花ちゃんが飛び降りた。その際にもう一度「うっ」と呻いた恵衣くん。
みぞおちを抑えながらゆっくりと立ち上がった恵衣くんに「大丈夫……?」と恐る恐る声をかけた。こめかみがぴくぴく動いている。まずいブチ切れ寸前だ。
「と、とにかくここから脱出しよう」
フー、と熱の篭った深く息を吐く恵衣くんの横顔をチラチラと伺いながらそう言えば、嘉正くんが「外の様子見てくる」とドアへ歩いていく。
振り返って凛花ちゃんを見た。
「走らそう? 太もも、怪我してるよね」
「ちょっとキツイかも……歩きなら何とか」
スカートから伸びる太ももには暗紫の靄がまとわりついていて、刃物で切り裂かれたような深い傷がある。
痛そう、と顔を顰める。
ここを出る前に天津祝詞を奏上した方が良さそうだ。
胸の前で手を合わせようとしたその時、クイッと軽く肩が引かれて顔を上げる。恵衣くんが私を見下ろしていた。
「場所変われ、俺がやる」
「え、でも」
「さっきも奏上してたろ。力残しとけ」
たしかに恵衣くんの言う通りだ。
大人しく礼を伝えて場所を代わる。恵衣は彼女の前に膝をついた。
伸びやかな声が祝詞を紡ぐ。祝詞を奏上する時は、普段よりも高くなる声が耳に心地よい。まろい光が傷口を包み込み、やがて残穢を溶かしていった。



