言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


その声は来光くんの耳にしっかりと届いたらしい。眉と目を釣り上げて口をへの字に曲げた般若面のような顔で恵衣くんを睨み付ける。

なんでこの二人は直ぐに喧嘩になるのかな。

まぁまぁと宥めようと口を開いたその時、「シッ」と嘉正くんが唇に人差し指を当てて振り返った。皆が息を飲んで体制を低くする。

耳を済ませた。吹き込む隙間風と共に、固いものを爪の先で叩くような硬質な音が遠くから近付いてくる音がする。


恵衣くんが素早く片手で「下がれ」とジェスチャーで示した。皆は息を殺して階段を戻り、手すりの死角に身を寄せる。

そっと少しだけ頭を出す。音は次第にこちらへ迫ってくる。誰かが生唾を読み込んだ。


廊下の影から現れたのは、黒光りする毛深い昆虫の足だった。軽く私の身長程度は大きさがある。足が素早く前後に動き、まだら模様の身体が見えた。身体は足よりも大きく丸く膨らんだ腹を引きずるようにして進んでいく。

頭には鬼のようなうねった角が二本、鋭い無数の牙をカチカチと合わせながら、大きな赤い目を忙しなく動かして居る。

口元を強く抑えて壁に背中を押し付けた。

足音が階段の前で止まる。

緊張で心臓が駆け抜けるように脈打つ。こめかみをたらりと冷たい汗が流れた。

やがて足音がまた遠ざかっていく。完全に聞こえなくなったところで、みんなの溜め息が揃った。


「コッワ! おっかなすぎるんだけど! 見た? あの牙……!」

「実物は迫力あるね……」


二人は青い顔で脱力する。