言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


フェンスの穴の空いた場所から中へ侵入した。入口の鍵は誰かに壊されたのか、背の高い重厚な扉の南京錠は土の上に転がっている。

男の子たちが逃げる時に開けたまま飛び出してきたらしく、人が一人分入れるほどの隙間が開いていた。


「地元で有名な心霊スポットなんだって。昔ここで働いていた中卒の男の子が、上司に虐められて自殺したとかって」


嘉正くんが裏で事情聴取を進めていたらしい。なんとも在り来りな設定だ。

中は割れた窓ガラスから薄ら月明かりが差し込む程度だった。各々にスマホのライトで足元を照らす。

工場の中は大きな什器以外のものは撤去されているらしく、埃臭さがあるだけでがらんとしていた。ただ残穢だけが濃霧のように立ち込めていて、皆は袖で口元を塞ぐ。


「見た感じ、心霊スポットだって騒がれるような要素はないけどね」


心霊スポットと騒がれる場所にはそれなりの理由がある。

本当にその場に霊が存在している場合もあるし、悪い気が溜まる鬼門の方角に位置しているせいで「何となく嫌な感じ」がして騒がれる場合、人々の負の感情から「怖い場所、恐ろしい場所」と印象づけられる場合、噂が噂を呼んで事実とねじ曲がった言われがついて心霊スポットと仕立てあげられる場合など。

この廃工場は鬼門の方角でもないし、霊の気配もない。おそらく、噂から生み出された心霊スポットの類だろう。

来光くんがぐるりとライトを巡らせて2階への階段を見付けた。あっちだね、と指をさす。凛花ちゃんとはぐれたのは2階の廊下だと聞いている。