「幽世が乱れているから、現世に出てきている妖が多いらしい。気をつけて進もう」
暗闇の奥からこちらを伺ういくつもの赤い目に厳しい表情を浮かべた嘉正くん。
幽世では少し前に、芽さん側についた黒狐族が妖の集落を襲う事件が発生し、かむくらの神職により鎮圧されたものの、取り逃した残党があちこちに潜伏している状況だ。
これまでとは違う雰囲気を感じ取った妖たちが現世に流れてきているらしく、おそらくいま現世を騒がせている「神隠し事件」も、流れてきた一部の悪意ある妖が原因なのだろう。
「今日中に進めるところまで進んで宿を取るぞ」
恵衣くんが振り返った瞬間ほんの僅かに目が合った。思わずフってと逸らしてしまいすぐに反省する。
気を引き締めるって決めたばかりなのに。
また火照り始めた頬を扇いで冷まし、「うん」とひとつ頷く。
スマホに目をやった嘉正くんが顔を上げた。
「終電を考慮したとしてもあと四時間くらいは移動できるね。明日の昼には着くんじゃないかな」
「ああ。だから今日は宿で鈴を回収したあとの動きを……」
次の瞬間、夜気を引き裂く悲鳴が走った。



