「お前といると、合理的な判断ができなくなる」
その揺れる瞳には私だけが映っていた。
風が吹き抜ける音も、木々が揺れて葉が擦れる音も聞こえない。ただ自分の心臓の拍動と呼吸の音だけが鮮明に聞こえる。恵衣くんの顔が、いつもよりも鮮明に見えた気がした。
「空亡を倒す方法が、お前があの祝詞を奏上するしかないのだとしても……俺はお前に奏上して欲しくない」
不器用な人、でも本心や大切なことは決して目を逸らさずに伝える人だと知っている。
揺らがない。ただ真っ直ぐに私だけを見つめている。
「空亡なんて倒せなくてもいいから、俺は巫寿に生きていて欲しい」
恵衣くんだからこそ、嘘偽りはなく心の底から出た言葉なのだとわかる。
そしてそう思ってくれていることが、震えるほど嬉しかった。こんな状況だと言うのに、泣きたくなるほど幸せだった。
ゆっくりとその手をほどく。私も目を逸らさない。
素直な気持ちはちゃんと伝えておきたかった。
「私も同じくらい、恵衣くんに生きてほしい」
恵衣くんがぎゅっと眉根を寄せてまた怖い顔をした。
「言っただろ。俺たちは守られるだけの存在じゃない。俺のことはいい。俺はお前に守られなくても、自分で何とかする」
それは私が神修を出ていこうとした時に、恵衣くんがかけてくれた言葉だ。



