思い返せば、何度か寝泊まりしたことはあっても、社や社務所の中をよく見て回ることはなかった。一度目は何がやんやらという状況だったし、二度目は別の急を要する用事があったので、部屋を探検する余裕なんてなかった。
荷物を置いた私たちは直ぐに手分けして敷地内を調べることになった。
私は一度白虎を見かけた鎮守の森の調査を任されたので、梅の花が咲き乱れる森の中を彷徨う。むせ返るような濃厚な梅の花の香りが懐かしい。
初めてここへ来た日も、こんな風に梅の花が咲き乱れていた。木の幹をそっと撫でながら少しづつ奥へ進む。
本当にうっすらと、その景色を覚えている気がした。幼い頃に見た景色だ。
目が覚めるような鮮やかな梅重色の絨毯の上を駆け回り、大きな木に登って遊んだ記憶。
そう、いつも木に登っていたら「御神木で遊ぶんじゃない!」と誰かに叱られていた気がする。あれは、絹糸のように艶やかな白髪、蜂蜜を掬いとったような琥珀色の瞳を持ったお兄さんだ。
────恣冀。
時期的には間違いない。
志ようさんが最後に十二神使を顕現したのは空亡戦の終盤、私がかむくらの社へよく遊びに行っていたのもその頃だと母のスケジュール帳には書いてあった。
私は幼い頃、白虎にも会ったことがある。
そして最後まで行動を共にしていた白虎が、志ようさんから何も聞かされていないはずがない。おそらく白虎は、先見の明で見た未来で私や志ようさん自身がどうなるのかを聞いている。
聞いた上で最後まで行動を共にして、その後姿を隠した。
白虎は何をどこまで知っていて、今どこで何をしているんだろう。



