言祝ぎの子 結 ー国立神役修詞高等学校ー


「空亡戦の正式名称だ。覚えとけ」


亀世が頁を捲りながら答える。亀世の肩越しに報告書を覗き込む。手書きの報告書だった。

左端には日付があって、どこで何があったのか、何を見たのかが詳細に記されている。負傷、死亡、という文字が次々と目に飛び込んできて思わず眉を顰めた。

ザッザッと素早く頁を捲っていく亀世は、ある箇所で手を止めた。そして「この辺だ」と呟くと、人差し指で文字をなぞり始める。


「────山間部に空亡を追い詰め、十七名の神職が交戦。戦場一帯は空亡の放つ残穢により著しく視界を阻害され、霊的環境は極度に悪化。結界の維持は困難を極め、神職側は終始劣勢に立たされ、多数の死傷者を出すに至った」


亀世が報告書を読み上げていく。報告書の内容は大人たちから聞いた話とほぼ同じだった。


「交戦終盤、審神者および正体不明の白髪の妖一匹が戦域に出現。審神者は直ちに天地一切清浄祓を奏上し、戦域の穢気を強制的に収束させた。その際、清浄化の作用は空亡本体にも及び、当該存在は審神者の身体へ吸引される様相を呈したが、完全収束に至る直前、空亡は自らの霊体を八裂に断ち、各方位へと散逸────」


眼鏡を押し上げた亀世が「おい鶴吉」と背後にたっていた対を呼び付ける。


「これ分かるか?」


指さした文字に顔を寄せた鶴吉がしばらく考え込んだあと「ああ!」と指を鳴らす。


究極祝詞研究会(ノリケン)で前に話題になったことがあったな。名前の通り、天も地もその場にあるもの一切を浄化する祝詞だ。その際に不浄を自分の中に取り込んで、己の言祝ぎと相殺させ合うことで浄化させるんだよ。高度な祝詞だから、使える人間はほぼいないってセンセーが言ってた」

「なるほどな。当時の審神者は稀に見る言祝ぎの持ち主だったらしいし、全部納得だ」